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自分の生き方は自分で決める ―― 「日本人としてのありよう」論批判

教育基本法改正 民主は修正協議に応じよ

衆院教育基本法特別委員会が再開され、政府の改正案と野党の民主党案について提案理由の説明が行われた (略) 政府案は3年に及ぶ与党協議会での議論を踏まえ、民主党案も2年近い同党教育基本問題調査会で検討を重ねた。これ以上、いたずらに時間を費やすべきではない / 現行の教育基本法は終戦後の昭和22年3月、GHQ(連合国軍総司令部)の圧力や干渉を受けながら成立した。「個人の尊厳」や「人格の完成」など世界共通の教育理念をうたっているが、肝心な日本人としてのありようがほとんど書かれていない。/ 安倍内閣は、教育基本法改正を臨時国会の最重要課題としている。学校でのいじめや家庭での幼児虐待など、荒廃する教育現場を根本から再生するには、今国会での成立が急がれる。

2006.10.26産経新聞「主張」より
http://www.sankei.co.jp/news/061026/edi000.htm

教育基本法には「肝心な日本人としてのありようがほとんど書かれていない」とお嘆きの『産経』社説子。へぇ。じゃあ他国の教育法規には、「○○人としてのありよう」が当然のごとく書いてあるんだろうね。そう思って調べようとしたら、中教審がすでに調べてくれていました。


 …あれれ?「○○人としてのありよう」らしき文言を掲げる法律は、意外に少ないみたいですよ。唯一それっぽいのは、中国の「教育法」が「社会主義教育の推進」と並んで掲げる「中華民族の歴史、文化、伝統の継承、高揚」ぐらいか。
「国家は教育を受ける者に対し愛国主義、集団主義、社会主義の教育を実施し、理想、道徳、規律、法律、国防及び民族団結の教育を実施しなければならない」なんて条文もあったりして、「社会主義…」を除けば、自民党文教族が泣いて喜びそうな内容です。さすが“一党独裁”の国。自民党はさぞうらやましがっていることでしょう。

とはいえ、これは突出した例。他には「ロシア連邦教育法」の第2条に「全人類に普遍的な価値、個人の生活と健康及び人格の自由な発達を促すため、教育に人道主義的性格をもたせる。市民に必要な資質として、労働愛、個人の権利と自由に対する尊敬の念、自然・祖国・家族に対する愛情を育む」といった条文が見られる程度です。そのロシア教育法にしても、「前文」では教育について「個人、社会及び国の利益のために目的をもって組織される教育と教授のプロセスのことであり、国が定めた教育水準に対する市民の到達度の認定を伴う」と定義するのみで、「ロシア人として…」みたいなことは書いていない。
そもそも教基法にあたる法律自体ない国が多く、あっても教育環境の整備を目的とした実務的な内容が目立ちます。

ただ、フランス版「教育基本法(ジョスパン法)」韓国版「教育基本法」などは、日本の教基法とも性格が近そう。

で、これらには「フランス人としてのありよう」や「韓国人としてのありよう」は、果たして書かれているのか…?
「教育は、国の最優先課題である。教育という公役務は、生徒及び学生を中心に置いて構想され組織される。それは機会の均等に貢献するものである。人格の発達、初期教育・継続教育の水準の向上、社会生活・職業生活への参加、及び市民としての権利の行使を可能にするため、教育を受ける権利は各個人に保障される。 一般教養及び認知された資格を獲得することは、その社会的・文化的・地理的出自に関係なく、すべての青年に確保される。障害をもつ青年の学校への統合は促進され、治療・保健機関はその一翼を担う…」(仏ジョスパン法)

「この法律は、教育に関する国民の権利・義務と国家及び地方自治団体の責任を定め、教育制度及びその運営に関する基本的事項を規定することを目的とする…教育は弘益人間の理念のもと、すべての国民をして、人格を陶冶し、自主的な生活能力と民主市民として必要な資質を備えるようにし、人間らしい生活を営むべく、民主国家の発展と人類共栄の理想を実現することに寄与することを目的とする…」(韓国教基法)
…う~む、残念ながら(?)なさそうですね。
産経「主張」風に言えば、「『機会の均等』『人格の発達』『弘益人間の理念』『民主国家の発展と人類共栄の理想』など世界共通の教育理念をうたっているが、肝心なフランス人/韓国人としてのありようがほとんど書かれていない」ということになるでしょうか。でも、これらの国で「だから教基法は改正せねばならない」といった議論が起こったという話は、寡聞にして知りません。(「極右」で鳴らすルペン氏は、「ジョスパン法の改正」を訴えたりしてるんでしょうかね?)
少なくとも「○○人としてのありよう」を教育理念に持ち込むことは、世界的に見ればあまり一般的ではないようです。したがって、「日本人としてのありようが書かれていないから、教育基本法はフツーではない、オカシイ」式の主張は誤りということになります。

とはいえ、他の国がしている(していない)からといって日本もそれに合わせる必要はないし、必要に応じてわが国独自の理念を法律に盛り込むことは一向に構いません。それならば「日本人としてのありよう」を盛り込むことがどんな必要に迫られているのか、という立法事実はもとより、それによって具体的に何をどう改善できるのか、といった明確な説明が欲しいところ。ところが、そうしたものはこれまで全く提出されていないと言っていいのが現状です。「GHQの干渉を受けたから」「世界共通の理念しか謳われていないから」そんなイチャモンばかりが騒がしく、「日本人としてのありよう」を盛り込むことが、いかにして産経の言う「学校でのいじめや家庭での幼児虐待など、荒廃する教育現場を根本から再生する」ことにつながるのかは、依然として全く見えてきません。だいたい「学校でのいじめや家庭での幼児虐待」が倫理に反するのは、なにも日本に限った話ではない。それこそ「世界共通の教育理念」で対処すべき問題であって、「日本人として…」なんてものを持ち出すのは、完全なるカテゴリーミステイクです。

自分が「日本人らしい」と思う生き方をしたい人は、存分にすればいい。そんな人にとって、国家が規定する「日本人としてのありよう」を押し付けられることは迷惑でしかありません。一方、そういう生き方をしたいと思わない人は、全くする必要がない。そんなの当たり前の話じゃないか。
何に価値を感じ、どんな生き方を選択するかは個人の自由。教基法が謳う「個人の尊厳」や「人格の完成」は、そうした社会を実現するための理念です。いかなる手段によってであれ、国家が個人の価値観や生き方に干渉してくるのであれば、そんな国家を私は最も軽蔑します。

教育基本法改定に、反対。
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コメント

コメント(20)
No title
今、下で夫がTVで「亡国のイージス」を観ています。私もさっきまでお皿洗いながら音だけ聞いてました。「日本人には今、世界に誇れる生き方があるのか」とか言ってました。へんな言い方だなあ。「生きる」のは「私」であって、生き方とは徹頭徹尾個人の問題です。「生き方を世界に誇る」というのも意味不明です。

sta*sto*y60

2006/10/29 23:15 URL 編集返信
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TBどうもありがとうございます。

tou*uhy**uchi*

2006/10/29 23:48 URL 編集返信
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STARさま。亡国のイージスは私もDVDで見ましたが、金が掛かっている割に出来の悪い映画ですな。正直言って主題が分からない。「世界に誇れる価値を持たない今の日本は守る価値もない国、即ち亡国」だと言う事らしい。「誇るもの」が有っても、無くても、偉い人も、そうでない人も守られるべきものの筈なのだが。観念が先に来る転倒した考え方の人がいても不思議じゃないが、今の世とはいえ、それが話題映画になるのが分からない。

mom*t*ro*345

2006/10/30 00:22 URL 編集返信
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転載&TBいただいた方、ありがとうございます。

Jinne Lou

2006/10/30 00:59 URL 編集返信
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>TOCKAさん 何にせよ、純粋な個人の趣味や価値の領域に、国家が土足で踏み込んでくることは不快です。「価値」に関わることを公教育で扱うとすれば、他者との共存を図るうえで必要な最低限の行動ルールやマナーにとどめるべきでしょう。

Jinne Lou

2006/10/30 00:59 URL 編集返信
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>tetsushi_22さん はじめまして。そうした「ありよう」も含めて、存在するのは個人が各々考える「個人としてのありよう」でしかないと思います。

Jinne Lou

2006/10/30 01:00 URL 編集返信
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>ff6988mさん 個人の内面である「心」を政府が統制することは原理的に不可能ですが、それゆえに「日本人としてのありよう」や「国を愛する態度」といった、外形的な部分に真っ先に手をつけようとしてくるんでしょう。最近の産経は、政府として大っぴらにはできない主張を先取りして流布することで、補完的な役割を果たしているように見えます。

Jinne Lou

2006/10/30 01:00 URL 編集返信
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>starさん 同感。やたら「日本人として」なんて言いたがる人間には、「日本人じゃなくて、あんたはどうなんだ」と聞きたい。最近はどうやら「誇り」ブームのようですが、誇りなんてものは各個人が自分の生き方を実践した結果として得られるもんでしょう。誰かに誇れるかどうかなんてどうでもよろしい。自分が納得できる生き方さえできれば。

Jinne Lou

2006/10/30 01:00 URL 編集返信
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>桃太郎さん はじめまして。たしかに「改正法案」は民主案と自民案のいずれも、恥ずかしさでは優劣つけがたい内容ですね。

Jinne Lou

2006/10/30 01:23 URL 編集返信
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そうです。民主党案を見て、お前もか?と反発以前に、穴に入って隠れたいような恥ずかしさを感じました。教育=国力の経済合理主義を徹底してくれた方がよっぽどましです。

mom*t*ro*345

2006/10/30 03:13 URL 編集返信
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この新聞記事で最も重要な部分は、「学校でのいじめや家庭での幼児虐待など、荒廃する教育現場を根本から再生する」ということでしょう。このような大事なことに反対している人がいるのでしょうか、見落としているのでしょうか。それから、あれこれ空想を膨らませているようですが、「○○人としてのありよう」とはこれだけではどういう意味なのかわかりません。確かなことを言うと、日本の法律と、他国の法律は違うという基本的なことを知る必要があります。

ptr*g*e

2006/10/30 10:52 URL 編集返信
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その国の国柄の応じて、法律はつくられています。それは世界共通です。そういう基本的なことがわかっている人ならば、表現に不明点があっても、単に基本的なことを書いてるだけじゃないかと、それくらいのことはわかるんじゃないでしょうか。

ptr*g*e

2006/10/30 10:52 URL 編集返信
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「日本人には今、世界に誇れる生き方があるのか」・・・島国根性丸出しです。

お役所の星

2006/10/30 23:01 URL 編集返信
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>ptrqgieさん 相変わらず何が言いたいのかよく分かりませんが、上記記事を読んでいるとは思えない的外れな文章が見受けられますね。あなたの言う「学校でのいじめ~」「その国の国柄の応じて~」については、記事中の「とはいえ、他の国がしている(していない)からといって日本もそれに合わせる必要はないし、必要に応じてわが国独自の理念を法律に盛り込むことは一向に構いません」以下の文脈をよく吟味してください。

Jinne Lou

2006/10/30 23:38 URL 編集返信
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お久しぶりです。。。コメありがとうございました。この記事、転載させていただきますね。

tom

2006/11/01 08:37 URL 編集返信
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tomさんのブログ周りで来ました。この記事内容に大いに賛成です。中国の法律はびっくりしました。本当に独裁国家に見えてきます。まあ世界最大の「社会主義国」としての責任感wとか、毛沢東主義への反省とか、色々あるんですかね。ちょっと面白かったです(不謹慎かな)。

ベースケ

2006/11/01 10:16 URL 編集返信
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転載させて貰いました。

レイ豚

2006/11/01 20:53 URL 編集返信
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TOMさん&ubiquitous buddaさん、転載どうも。ひげおやじさん、はじめまして。「国家は教育を受ける者に対し愛国主義、集団主義…理想、道徳、規律、法律、国防及び民族団結の教育を実施しなければならない」なんてまさに安倍らが考えていることでしょうが、彼らの「理想の教育」がすでに中国で実践されているのが面白いですね。

Jinne Lou

2006/11/02 00:41 URL 編集返信
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トラバありがとでした。同感です! みなさんとJinneさんのコメントの内容もたくさんの人に読んでもらいたいですねえ。

kik*ou*17

2006/11/06 09:23 URL 編集返信
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桔梗さん、いつもありがと。

Jinne Lou

2006/11/07 02:34 URL 編集返信
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