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未読書日記11 『トポロジカル宇宙〈完全版〉 ポアンカレ予想解決への道』根上生也 著

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06年にロシアのグレゴリー・ペレルマンという数学者が「ポアンカレ予想」を証明したというニュースに接して以来、この「ポアンカレ予想」ってもんが気になっていました。解決を報じる記事にも簡単な解説があったものの、それだけでは何のことやら全く不明。大まかにでも理解しようと思っていたところに、昨年に手頃な本が出たので購入した次第。

余談ながら、ペレルマン氏はかなり浮世離れした人物らしく、世紀の大発見に世界が沸くのをよそに、故郷にひきこもって他人との接触を断絶。数学界最高の栄誉であるフィールズ賞(賞金1万ドル)も辞退して、現在は故郷で母親とともにわずかな貯金と母親の年金で細々と生活しているとのこと。趣味はキノコ採り。

問題自体は中学生でも理解できるフェルマーの最終定理なんかと比べて、ポアンカレ予想はまず問題の理解にもひと苦労。「単連結な3次元閉多様体は3次元球面と位相同型であろう」ということですが、確かに何のことやら分からん。

これは「トポロジー」と言われる幾何学の一分野の問題で、「位相幾何学」と訳されるらしい。ふつう幾何学といえば、図形の面積や角の角度、線分の長さを厳密に求めたり、それによって合同・または相似な図形とそうでないものを区別したりといったことをイメージするけど、トポロジーではそういう細かいことは一切考えない。サッカーボールもバナナも湯呑も、みな同じ形と考える。しかしコーヒーカップやビールジョッキ、輪ゴムなどは、前掲の3つとはまた違った別の形。ある形からある形へと、粘土の要領で穴を開けたり塞いだりせずに変形できるのであれば、それらは同じ形と見なすわけです。そうすると、穴が1つも開いていないボールやバナナは同じ仲間。取っ手が付いているカップの類や輪ゴムは、1つだけ穴が空いている仲間になる…といった具合。
私が理解した範囲でごく大雑把に言えば、ポアンカレ予想とは「1つも穴が開いていない立体図形は、すべて球体と同じと見なせるはずだ。さあ証明してみなさい」という問題。だと思う。たぶん。

これは「われわれの住む3次元宇宙はどんな形をしているのか?」を問う上で、解決せねばならない重要な問題だそうです。宇宙は球体なのか、それとも穴の開いたドーナツ型(トーラス体)なのか、もっとたくさん穴が開いた形(ハンドル体)なのか――。
ただ「球体」「ドーナツ型」などと言っても、普通にイメージするそれらの3次元立体のことを言っているのではないから厄介。たとえば地球の表面のような球面は2次元の世界であるにもかかわらず、3次元の世界にいるわれわれから見れば、全体としては3次元的な球体に見える。そして2次元球面としての地球の面積は有限である一方、どこまで行っても「果て」と呼べるような場所はなく、永久にぐるぐる回り続けることが可能であるという特徴を持つ。ドーナツの表面についても同じことが言える。これをアナロジーとして、3次元の世界にそっくりそのまま置き換えて考えると、この宇宙は「穴」の開いていない「3次元球面」なのか、「穴の開いたドーナツ」の表面のような構造になっているのか、という問題が成り立つわけです。

宇宙が球面的な構造を持つ空間なのであれば、ある方向に真っ直ぐ進めばいつかはスタート地点に戻ってくるはず。それはドーナツ型でも同じ。でも後者の場合にはどこかに「穴」が開いているので、たとえば長いロープを引きずりながら宇宙旅行をしてスタート地点に戻ってきたときに、その両端をつかんですべてのロープを回収しようとすると「穴」に引っ掛かってしまう、という点が前者とは違う。それが引っ掛からなければ、その宇宙は必ず「3次元球面」であろう、というのが「ポアンカレ予想」である――とする説明も成り立つらしい。尤も、この本で理解したところでは、どうやらこの宇宙は「ドーナツ型」であるようなのですが。

「なるほど!」と妙に感心したのが、「宇宙をそのまま縮小した模型を、宇宙の中に置くことはできない」というくだり。これは地球と地球儀の関係で考えるとよく分るんですが、2次元の世界である地球の表面を表そうとすると、どうしても「果て(端っこ)」ができてしまう2次元の地図にするか、3次元の立体である地球儀にして、2次元平面からは飛び出した机の上にでも置いておくしかない。「広さは有限だが、どこまで行っても果てがない」という地球の表面の特徴を、同じ地球表面の2次元平面上に縮小して表すことは無理だからです。だって地球儀の表面は端がなく「閉じた」構造をしているわけで、それを本物の地球の表面にぺたっと張り付けるには、表面を一度破いて剥がすなどせねばなりませんよね。これと同じように、3次元空間であるこの宇宙の中に、同じく3次元の縮小模型を置くことはできない。強いて言えば、4次元以上の空間になら置けるだろう、ということになる。

しかし我々は4次元の空間には出られないので、3次元宇宙の内側から宇宙の形を探らねばならない。この本では、日本という島国の形を上から(3次元空間から)眺めることなしに、海岸線をひたすら歩き続けて(2次元平面上から出ることなく)明らかにした伊能忠敬の業績になぞらえ、その方法を紹介しています。ただし例によってまだ読んでいる途中なので、無責任につまみ食いだけできるのがいいところ。

興味のある方は、是非どうぞ。
本の詳細はこちら
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コメント

コメント(3)
No title
位相幾何学の問題を以前簡単に説明してもらったことがあります。不動点定理とかいうのでしたがおもしろかったです。
この学問は研究したらはまりそうですが、ペレルマン氏はずいぶん変人ですな。

lotusrayeighty

2008/06/02 22:04 URL 編集返信
No title
数学の中でもちょっとユニークな分野みたいですね。この本では数式は全く出てこないんですが、それだけに問題の本質的な難しさみたいなものが感じられました。
ペレルマン氏は以前は快活な人物だったようですが、この問題に取り組むうちに内向的になっていったとのこと。このままそっとしておいてもらったほうが、彼にとって幸せな生活なんでしょう。

Jinne Lou

2008/06/03 10:07 URL 編集返信
No title
そうなんですか。人格が変わってしまうとはポアンカレ予想恐るべし。

lotusrayeighty

2008/06/03 18:16 URL 編集返信
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