FC2ブログ

「地震予知」騒動、非決定論、非合理への欲求など

地震予言:「大地震の予言」に大揺れ Xデーは無事「ハッピーなこと」…

 「9月13日、岡崎市を震源とする大地震が起きる!」――。こんなうわさを聞いた人は少なくないはずだ。うわさの「震源」はブラジル人の自称予言者で、雑誌やインターネットで「予言」の内容が広まった ( 略 ) 岡崎市などで広まった予言は「08年9月13日には岡崎市でマグニチュード8・6の地震が発生し、3万人が被災し600人以上の死者が出る。この地震は日本でなく中国で起きる可能性もある」との内容。ネットで紹介され、たちまち広がった / 岡崎市のあるスーパーでは13日前の1週間に懐中電灯、カンパンなどの防災関連商品が通常の2倍以上売れ、一部商品は品切れになった。 ( 略 ) 市が設けた災害対策本部にも「13日の地震」に関する問い合わせが何十件も寄せられた。市防災課によると「うわさが広まっているが、地震は起きるのか」との内容が大半。豪雨の際に避難勧告が市民にうまく伝わらなかったこともあり「どうして地震の避難勧告を出さないのか」と詰問するような電話もあったという / 子供たちの間でも地震のうわさが拡大した。岡崎市立甲山中2年生の女子生徒は「友達と『部活を休んで逃げようか』『死ぬんだったら宿題しなくていい』という話で持ちきりだった」と振り返る。 ( 略 ) 「家の中でも通学用のヘルメットをかぶっていた」「地震を避け、家族で長野県の親類の家に行った」との例もあった ( 略 ) 人騒がせな自称予言者は、地震が起きなかったことについて「ハッピーなことだ」と日本の代理人を通じてコメントしている。
(以下略)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080923-00000023-mailo-l23

この「予言」の話は何かでちらっと読んだか聞いたかしてなんとなく知ってはいたけど、まさかこんなことになっていたとは。
こうしたニュースに接すると、何とも言えない不気味さを感じます。なんら根拠のない非合理的な言説が、ときに多くの人を不安に陥れて特定の行動に駆り立てる力を持つわけだ。http://x5.nobody.jp/bin/ll?062899800.gif



ところで、数カ月前から「○月○日」のレベルまで特定して地震を予知できるとしたら、その前提として「未来はすでに(少なくとも暫定的には)決定している」という世界観が必要でしょう。
19世紀ぐらいまでは「未来はすでに決定しているのか?」は科学上の重大問題で、フランスの数学者のラプラスなんて人は「現在の世界の状態をすべて正確に知ることができれば、未来にわたってもそれがどのように変化していくか正確に記述できる」と考えていました。たとえばビリヤードの玉などは、正確に計算して特定のポイントを特定の速さと角度で突けば、その後はほぼ予測通りの動きになる。大砲の弾もきちんと軌道計算してやれば、狙った着弾地点に落とすことができる。すべての物は物理法則に従って運動するのだから、初期状態とそこに与えられる条件さえ分かればその後の動きも完全に予測できるというわけです。それと同じように、世界を構成しているすべての要素の状態が決まっている(われわれの意識ですら、脳内での化学物質や電子のやりとりとして記述できる)のだから、未来に起こる出来事もすべて決定しているだろう、というのがラプラスに典型的な当時の考え。

しかし、現在ではそれは否定されています。
いわゆる複雑系科学で扱われるカオス理論で、「バタフライ効果」というものがある。蝶が1回羽ばたくことで起こった小さな空気の乱れが、数カ月後には台風を引き起こすこともあるほど、ささいな変化が長期的な未来に対して大きな影響力を持ちうるといった話。Aという変化がBとB'という変化を引き起こし、それらがまたそれぞれCとC'、C' 'とC' ' 'という変化を生み…と、影響が際限なく増幅していくからです。「クレオパトラの鼻があと少し低ければ歴史は変わっていただろう」みたいな話で、初期条件のほんのわずかな違いが時を経るごとに増幅されて、後の歴史に重大な相違をもたらすことが科学的に実証されています。そして世界を構成する一つ一つの素粒子の状態は、それが観測されるまでは不確定であることも量子力学によって明らかにされました。この宇宙に10の80乗個くらい存在するとされる素粒子一つ一つの状態がどう転ぶかによって、その後の世界の歴史に重大な変化がもたらされる。そしてそれらの素粒子の状態がそもそも決まっていないので、未来もいまだ決まっていないということになります。

明日の大まかな天気や、向こう3ヵ月が平年より暑いか寒いか、あるいは数十秒以内に発生する地震くらいなら、さまざまな方法で予知することも可能でしょう。その程度の時間差や大雑把さであれば、初期条件の違いが結果に与える影響が誤差の範囲内に収まるので、これまでに帰納的に得られたデータや物理法則を利用して予測できるからです(それすらしばしば外れるが)。
しかし今回の「予言」に関して言えば、その許容範囲を大幅に踏み越えています。未来はあらゆる意味で「決定していない」のだから、物理法則で予測不可能な範囲について「知る」ことは論理的にも不可能です。

とはいえカオス理論など知らなくても、数カ月も前から日付まで特定して地震を予知することなど不可能であることくらい。常識的な感覚で分かりそうなもんですが。
具体性をともなったデタラメほど、信憑性が高いように錯覚しがちなのかもしれません。しかしこのジュセリーノとかいう自称予言者のサイトを見ても、“当たった”と称する数少ない「予言」はすべて「下手な鉄砲も数撃ちゃ…」の類であることが分かる。実際、ほとんどが大ハズレ。騒ぐ前に、注目を浴びる「予言的中」の背後に膨大な数のハズレが存在していることを知るべきでしょう。

「と学会」の山本弘氏のコメントが的確です。
70年代に米のジャーナリスト、デビッド・ワルチンスキーらが行った調査によると、雑誌に載った10人の予言者の予言、計360件のうち、当たったのはたった4件だったという。予言の99%は外れている。天変地異の予言に関して言えば、過去、多くの占師や予言者がさまざまな警告を発してきたが、大災害の起きる年月日や場所を正確に当てた例は皆無だ。今回の予言者にしても、08年1月から9月の間に世界で起きるという大地震を20件予言したが、見事にすべて外している。予言を信じるという行為は、競馬で勝率ゼロの馬に賭けるような無謀なギャンブルだ。もちろん地震も台風もいつか必ず来るのだから、災害への備えは必要。しかし、オカルト的な予言など必要ない。根拠のない予言などにおびえるより、地震学や災害対策の専門家の言葉に耳を傾けた方が、よほど有益だ。


きっかけは何にせよ、災害に備えること自体は良いことかもしれない。だけど情報の信憑性について合理的に考えることもなしに不安に駆られてしまう人が多い事実は、やはり気になる。とくにこの種の重大なカタストロフィーに関する予知言説に関しては、なぜか盲目的に信じたくなる「非合理への欲求」とでも言うべき衝動が人々の間にあるようにも思えてくる。
こういったものに影響されやすい小中学生には、大人が「自分のアタマで合理的に考える」態度を示していくことが必要だと思います。
スポンサーサイト



コメント

コメント(10)
No title
この手の話、雑誌の見出しでも見かけますね。「地震が起きる」 とか 「富士山が噴火する」 とか言われると、やっぱり気になりますけどね。
このような場合に働く人間のこころの動きって、やっぱり興味深いですね。朝日新聞でも噂に関する人間の認知や感情の動きに関してのコラムがあったっけ……。

長尾啓生

2008/09/25 05:24 URL 編集返信
No title
私も興味深く思っています。「予言」の内容が深刻であればあるほど信じたくなる人間の心理のメカニズムは、どこから来るものなのか。生存競争の過程でなんらかのバイアスが働いて、自然と身に付いてきたものなのかもしれません。

Jinne Lou

2008/09/26 02:12 URL 編集返信
No title
この予言、うちの学生から聞いてました。
にしても、どうして専門家の言うことよりも、こんな「非科学的」なことを信じるんでしょうね…。その心理はサッパリわかりません。

あと、カオス理論による、未来はわからないというお話、興味深いですねぇ。だとしたら、息を吹きかけることで素粒子の動きを変えて、それで歴史が動いてるかも知れないってことですねぇ(って、息を吹きかけて素粒子が動くのか知りませんが)

tom@いやし系(ら抜き)

2008/09/26 08:47 URL 編集返信
No title
>「予言」の内容が深刻であればあるほど信じたくなる人間の心理のメカニズム

Jinneさんの推測と似ていますが、生存本能の一部からくる防御反応ではないでしょうか。

lotusrayeighty

2008/09/26 15:02 URL 編集返信
No title
>tomさん

そういうことになりますが、素粒子は観測されない限り状態が非決定なので、その後の歴史がどう動くのかは依然として全く決まっていないということだと思います。

Jinne Lou

2008/09/27 03:26 URL 編集返信
No title
>Lotusさん

そんな気がします。ただ「予言を信じる」という行為は、人間にしかできないことです。進化の歴史の中でも、比較的最近になって獲得された本能なんでしょうかね。

でも、もしかしたら生物進化よりも社会心理学の観点から考えるべきことかもしれません。

Jinne Lou

2008/09/27 03:30 URL 編集返信
No title
子どものころ聞かされたノストラダムスの大予言。将来、1999年から先を描けなくて不安で気の弱い小学生でした。
>なんら根拠のない非合理的な言説
これで関東大震災時には無辜の朝鮮人たちが吊るしあげられたんですよね…
予言が当たるのかあたらないのか…わからないのでとりあえず地震雲は気をつけて見ていますよ~テヘ

樹たろう

2008/09/27 05:05 URL 編集返信
No title
私もノストラダムス本は夢中になって読んだ時期がありましたね。私は不安になるよりも、ワクワク感のほうが大きかったです。1999年が近づく頃にはもう冷めてましたが。
当時の本を読むと、けっこうメチャクチャなことが書いてあって笑えます。

人は、恐怖の全体像が分からなくて不安なときに、それを分かりやすく対象化する言説に飛びつきがちなんでしょう。関東大震災では、それが最も忌まわしい形で現れました。

Jinne Lou

2008/09/28 03:36 URL 編集返信
No title
同感です。

「温暖化」問題にしても、真面目な科学記事を載せて、どうなるのでしょう?
と言っている人が、次の記事では、ジュゼリーノの予言の事を載せて、どうなるのでしょう?
と言っている。そんなブログも多いです。


科学ではっきりしていない部分(はっきりしていてもその人が知らない部分)を、あたかも「はっきり」、素人に分かりやすく「現象」を提示する…それに人は惹かれるのでしょうね。

綾波シンジ

2008/10/20 22:17 URL 編集返信
No title
たしかに、そんな感じの人も見受けますね。「科学的」とはどういうことなのかを、よく考えたことがないんでしょう。科学者が、一般の人にも直感的に分かりやすい説明をすることは重要ですが、そこに便乗した科学とは本来何の関係もない人が、いかにも分かりやいニセ科学をまき散らすことが問題です。

Jinne Lou

2008/10/21 02:24 URL 編集返信
コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

Jinne Lou

Author:Jinne Lou
個人>国家
公共≠国家

月別アーカイブ