FC2ブログ

未読書日記18 『音律と音階の科学』 小方 厚 著

イメージ 1



前から気になってはいたものの、他の面白い本にかまけてつい買わずにいた一冊。
しかし読み始めてみると、予想以上に面白い。
心地よいことは分かっているが、改めて考えてみると不思議なことだらけの「音楽」。現在では圧倒的な主流になっている西洋12音階は、恣意的にも見える音の並び方になっているのはなぜか?特定の音同士の組み合わせが心地よさを生むのはなぜか?といった、漠然と感じている疑問に極めて明快かつ論理的に答えてくれます。

副題にも謳われている、ドレミファソラシドがどうやって生まれたのか?についての話が実に興味深い。
「ハ長調のド(=C)」の音は、周波数で言えば261.62Hz、つまり1秒間に空気を261.62回振動させたときに人間が感じる音。それよりも半音高い「ド♯」は、277.18Hz。その差は15.56Hz。じゃあ「半音」にあたる周波数の幅は15.56Hzなのかといえば、さにあらず。「ド♯」よりもさらに半音高い「レ」は293.66Hzで、その差は16.48Hzとなり、先ほどの値と一致しません。
ところが2音間の「差」ではなく「比」に着目すると、半音上がることに約1.0594倍の周波数になっていることが分かる。つまり「半音上がる」とは、元の音が1.0594倍の周波数の音になるということらしい。周波数の差を見ればバラバラに見える各音階の間隔は、同じ倍率で並んでいることで、人間にとっては等間隔に感じられるわけです。
さらに言えば、元の音より1オクターブ高い音の周波数は2倍になりますが、2オクターブ高い音は3倍…ではなく4倍になる、という具合。
音の大きさの感じ方にしても、音のエネルギーが10倍になったところで、人間には数倍程度にしか感じられない。数学的に表現すれば、人間は音のスケールを対数に換算して感じることで、対応できるダイナミックレンジを広く取っているということになりそうです。

で、肝心の「ドレミ…」はどのようにして生まれたか。

まず人間には、ある音とその3倍の周波数(およびその2倍、4倍…や1/2倍、1/4倍…の周波数)の音との組み合わせが、心地よいと感じられる。いわゆる5度の和音で、ドに対してであればソ。これがすべての根幹にある。心地よい理由は、後者の振動が前者に含まれているから、ということになるらしい(このへんはいまいちピンとこない)。
根音を「ド」としたとき、その周波数を3倍し、それに1/2倍や1/4倍…などをかけてやることで1オクターブ以内の音に収め、さらにその音に対して同様の操作を繰り返すことを12回続けると、元の2倍の周波数の音、すなわち1オクターブ高い「ド」が得られる。これが1オクターブが12の音階に区切られている理由。
なんとなく恣意的に決められたのかと思っていた12音階ですが、「12」という数はきちんと合理的に導き出されたものだいう事実はちょっとした驚きです。ちなみにこの方法はピタゴラスが考案したそうですが、ほぼ同時代の中国でも「三分損益法」というほぼ同様の手法で音階が作られていたらしいし、日本でも江戸時代に和算家の中根元圭が、1オクターブを12乗根に開く方法で12音階を編み出しているとのこと。12音階は西洋に限らずかなり普遍的なものだという事実にも、何かすごく深遠なものを感じます。

ある物事を具体的に描き表せる絵画や文章などと違って、具体的な意味のないメロディーや和音に、人間はなぜ美しさや心地よさ、そして多様な感情を感じられるのか。興味は尽きません。

スポンサーサイト



コメント

コメント(6)
No title
「後者の振動が前者に含まれているから」というのは、ピアノで確認できますよ(電子ピアノやキーボードはダメですが)。

たとえば「ソ」の鍵盤を、音が出ないように押して、その状態のまま、その「ソ」より低い「ド」の鍵盤を強く叩いてすぐ指を離してください(「ソ」は押したまま)。そうすると、「ソ」の音も、僅かですが、共鳴して、音が出ます。「後者の振動が前者に含まれている」というのは、そういうことだと思います。

tom@いやし系(ら抜き)

2009/04/27 10:55 URL 編集返信
No title
所謂調性音楽を心地良いと感じるわけですが、それに必然性があるのかどうかということですね。しかし、無調性音楽でも、美しいものはあります。新ウィーン学派の作品には、美しいものが少なくないです。武満徹など、無調性でありながら、美しさを感じさせる稀有な作曲家ですね。フランスのメシアンやデュティユーなどもそうです。ブラームスは、保守的と思われがちですが、彼はかなり革新的な作曲語法を持っていて、シェーンベルクなどに影響を与えたようですし、マーラーは無調性の領域に片足突っ込んでます。アメリカのレナード・バーンスタインは、調性音楽に力を発揮する人でしたが、時代に後れてるとみられるのがイヤだったらしく、一時期無調性に手を染めてみましたが、どうもうまくいってないようです。私が、今注目している作曲家は、フィンランドのエサ・ペッカ・サロネンですね。シュトックハウゼンやブーレーズは、どうも理解できないです(^_^;)。ところで、昔は哲学者や社会学者も作曲しました。ニーチェはピアノ曲書いてますし、ルソーは「むすんでひらいて」で有名ですし。

och**obor*maru

2009/04/27 21:20 URL 編集返信
No title
>tomさん

たしかにそうですね。ソはドの3倍の周波数の音と同音階ということは、前者の振動3回ごとに後者は1回振動するのだから、「含まれている」というのは分かります。しかしそれなら(オクターブ違いの同音階となる2の乗数倍音を除いても)5倍音や7倍音についても同じことがいえそうなものなのに、どうして3倍音だけが特別なのか。そのへんがピンとこないんですが、まぁおそらくその中でも元の音に最も近い倍音だからということなのでしょう。

Jinne Lou

2009/04/28 01:48 URL 編集返信
No title
>NANAMIさん

たしかに無調でも、美しい音はありますね。小鳥のさえずりは無調ですが、美しいと感じる。あるいはリズム楽器だけでも美しいと感じる音は作り出せる。ただこれらは「無調性の音楽」とは言わないんでしょう。
無調性の音楽を追求すると、調性の枠内の音楽とは全く違った意味での心地よさが生まれてきますね。ジャズでもエリック・ドルフィーやセシル・テイラー、アルバート・アイラーらフリージャズ系の面々がそういうのをやっていましたが、最初から綿密に無調の音楽を構成する現代音楽とは違ってほぼ100%がアドリブなので、「音楽」としての美しさよりはむしろ動物の鳴き声とかのそれに近い感じです。

ルソーは知っていましたが、ニーチェも作曲してたんですか。

Jinne Lou

2009/04/28 02:07 URL 編集返信
No title
『サブリミナル・インパク ト』は即書店で購入して今途上ですが、今回もありがとうございます。
こちらも興味深く、困って(笑)しまいます。たくさんの本を読み残してしまうのかもしれません。
*
和音短調始め、音は限りなく不思議ですね。 (ド素人のただのリスナーですがそう感じます)
そういえば以前、TVニュースでトルストイ作曲のピアノ曲というのを聴いたことがありましたが
意外で、驚きました。

TKK@tkkhkkdmk

2009/04/28 07:05 URL 編集返信
No title
>TKKさん

本当に購入されたんですか。紹介した甲斐があるというものです。こちらこそありがとうございます。興味ある本が次々に出てくると、どれから読んだらいいか迷ってしまいますね。とりあえず買ってしまうので、読んでない本が溜まる一方です。

トルストイも作曲してたんですか。それは知りませんでした。

Jinne Lou

2009/04/29 02:29 URL 編集返信
コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

Jinne Lou

Author:Jinne Lou
個人>国家
公共≠国家

月別アーカイブ